推しが燃える日。
ずっとそのことを考えている。
あまりにもよく考えているので友達には「燃えてほしいの?」と聞かれたくらいだ。
そのときはただ私が推しを推すのがつらくなって降りるか悩んでいたころなので、
いっそ燃えてくれと毎日不謹慎極まりないことを思っていた。
いまでも誰か芸能人が燃えるたびに、私は推しが燃える日のことを考えている。
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現代には様々な立場の「推される人間」がいると思うが
生身の人間を推すのは本当に恐ろしいことだ。
生身の人間はある日突然引退を表明するかもしれないし
今までと違う分野を志すかもしれない
何年も何十年も「世間」とかに見つからないままかもしれない
ある日突然人を殴るかもしれないしお薬を飲んで捕まるかもしれない
生身の人間を推すのは恐ろしいことだ
生身の人間は、一度燃えてもけっこう復帰してくる
恋愛禁止アイドルの熱愛報道、突如現れる暴露アカウントによる告白
謎の流出画像、本人の不用意な発言……などの「炎上」はもちろん、
罪に問われても不起訴になって復帰してたりする。
事務所を出てもどこかで活躍していたり、
仕事が無くても正式に「引退」を掲げていない限り推しはそこにいるのだ。
ということはアレだ。推しが燃えて、推すのをやめても、
同じジャンルにいると結構またどこかで出会ってしまうかもしれない。
その時どうしたらいいの?成人式で元カレに会ったみたいにならない?
マンガとかドラマとかアニメとかゲームとかは
連載が完結し、あるいは打ち切りになり、またはサービスが終了したとしても
終わってしまったコンテンツをどのようにか消化するだけだ。
◆
ところで話は全く関係ないが、私はこの文章を書き終えたら
宇佐美りん先生の『推し、燃ゆ』を読むと決めている。
どうする?推しがファンを殴ったら。人を殴ったらまあ犯罪カウントだけど、
先日のウィル・スミスみたいな背景があったら私は推すことをやめられないかもしれない。
ああ、推し。どうか燃えないで。
私はその才能を推している。
7年くらい前に初めて推しを見たとき、「ああこの人に払ったお金はきっと一銭だって無駄にならない」と思った。そのときこの人を推そうと決めた。
いわば投資だ(?)。
推しを見るために、はじめて行く会場、土地。知らなかった作品に出合い、音楽を聴く。
この人を推せば私の人生はより豊かになる。そう思った。
クソデカ感情が湧いてポエミーになってしまっているが、
この人はきっとちゃんと売れる。活躍する。その妨げになるようなバカな真似はしないはず。
そういう気持ちで私は推しを推している。
ので、マァーーーーーーーーーアホな不祥事で燃えたときにはまず私は私の愚かさを恨むことです。
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常、推しに願っていることではあるが。
犯罪に手を染めるな。人を殴るな。薬をやるな。
裏垢で出演作品をこけにするな。
未成年とカラオケで酒を飲むな。
服を着てないときに写真を撮るな撮らせるな。
トイレで性行為に及ぶな。
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今ふと思ったけど、”推すのをやめる=もう二度と見ない”ではなくていいよな。
推しが捕まって有罪になったら即座に全部を切る予定だけど、
推しが燃えたら。遠征はやめると思う。チケットが取れなければ諦めると思う。
手元にあるブロマイドや写真集を二束三文で売り払うと思う。
開設したその日に入った、2桁の会員番号を惜しみファンクラブを退会するか迷うと思う。
推しに使っていたお金はそのほかの趣味に分散されて、ボンヤリした用途に消えていくんだと思う。
そうなったら着る服がいいままでより少し高価になるかもしれないし、
髪がもう少しだけツヤツヤになるかもしれない。もう少し広い部屋に引っ越すかもしれない。
あと確実に貯金は増える。
でもやっぱり、推しが燃える日はこないでくれ。